オランダ退職記念旅行③「飾り窓地帯」で考えたこと
オランダで行きたかったのは、「飾り窓地帯」と「アンネの家」と「ミッフィーミュージアム」。
後の二つのチケットは日本からでもインターネット予約ができたのに、元来の街ぶら気質による日時を守る自信がないうんぬんで四の五のしているうちに完売していて青ざめた。
でも、さらなる誰かのネット情報によれば「アンネの家」は当日券もあるらしい。
とりあえず行ってみる。
こういうスタンドが、オランダって感じがして憧れる。
「Pink Point GAY & LESBIAN INFO」って書いてある。
飾り窓もCoffee shop も、同性愛も早くからその存在をみとめ、選択の幅を広げている国。
「アンネの家」は堅牢で立派な西教会の向かいにあって、たくさんの人が並んでいた。みんなチケットを持っている人たちっぽい。「Anne Frank House」と書いた黒いウインドブレーカーのスタッフに英語で聞いてみる。
「チケット持ってないんですけど」
「ネットで取らないとダメなんですよ」
通じた!
「彼らはみんなチケットを持っているの? どうやって取ったらいいんですか?」と言うと、「15:00にこのサイトで販売されます」とアドレスと説明の書いた紙を渡してくれた。不思議なシステムだな~と思うけど、狭い建物だからそういう売り方になるのかもしれない。並ぶ必要がなく、15:00までこの場を離れて自由にすごせるのはいいや。
それにしてもスタッフ多いな。しかも若い人が多い。財団みたいな感じらしい。
そこから東に向かって歩き、ついに「飾り窓地帯」。
たしかに「erotic shop」って書いてある。その手のグッズが陳列してある。
写真は撮っちゃダメだと聞いていたから、橋の上から撮ってみる。
これまで見てきた特徴的な家々の形に沿った縦に長い窓が、そこに人が一人立つためのショーウィンドウとしておあつらえむきっていうことを、急に意識する。
運河沿いに降りて、少し歩いてみる。窓に女性の姿はなく、グッズショップしか見当たらない。
引き返そうか、と言われて橋の上に戻り、次の「レンブラント広場」を目指して通りを進むけど、やっぱり気になる。女性の姿を見たい。私はそれを見に来たんだ。
「戻りたい!」と言って、今度は少し中の暗い路地に入ってみた。
すると、女性が窓の中に立っていた。下着姿だった。ウインドウ越しにすごく堂々と、強い視線でこちらを見ていて圧倒される。足早に通ったけど、すぐ向かいのウインドウにもいた。
ここの女の人たちは直接交渉して仕事をするのだという。
危険な目に遭わないように、警察に直結する通報ボタンもあるらしい。
最後に見たウインドウの中では、椅子に座った一人を中心に、三人の女性が何か話しているようだった。
学生時代の研究テーマをきっかけに、私が今でも花街の女性に興味を持ち続けるのは、その女性たちが自分と同じだと思うから。
私は自分が教員をするのも書くことも、働くことも、自分を売ってお金を得ていると思っている。自分の時間や感情や経験。それは自分の身体ともいえる。
だから全然他人事ではない。だから見たいのだと思う。そういう思いは、働くにつれていっそう強くなっていった気がする。
アムステルダムで立っていた女の人たちは迫力があった。怒っているような、向けられる視線をはね返すような力とムードがあった。
やっぱり私と同じだ、と思った。