むりむりちゃん日記

私が孤独なのは私のせいではない

好きなタイプのタイル

「恵さんの好きそうなタイルの店がある」と言われて二軒目が決まった。 

 

タイル好きだったっけ。しばらく考えたけど、お酒を飲みながらだからすぐには思いつかない。ああ。そういえば、以前台湾のお土産で美っちゃんにタイルのコースターをあげたことがある。どんなのだったっけ。覚えていない。何だよ自分。

 

その夜はみんな日本酒を飲んでいておだやかに酔っぱらっていた。

美っちゃんはメニューに書いてあるあらゆる「麹」という文字をうっとりと撫でていたし、松さんは年末に金沢で自分が買った魚汁のだしを私も買ったと勘違いしていてその味を忘れたのかと迫り、私がその麹屋で買ったのは美っちゃんおすすめのビスケットだよと言ったら思い出したのかあっさり引き下がっていった。

その夜の「日本酒しばり」の見地から、松さんも二軒目に行きたい店があったようだけど、案の定美っちゃんに譲っていた。「恵さんの好きそうなタイルの店なら仕方ない」とか言って、松さんはいつも私たちに甘い。

そのお店は円頓寺商店街にあるらしく、歩いていくことになった。

円頓寺商店街名古屋駅から少し離れた古い商店街で、名古屋にいた時は、都心からわざわざ20分もかけて歩いていくほどの場所とは思っていなかった。そういえばあったのだなあというぐらいの色あせた印象の。

夜に歩くのが好きになったのは、お酒を飲むようになってからだ。まだ帰らなくていいのがいい。周りがみんな暗いのがいい。話すことがありすぎて、でも黙っていてもよくて、やっぱりなんでも話せそうになる。

多幸感と万能感と非日常感にあって、いくつかの記憶が重なり、いつか誰かと通った道をかすめて歩く。

高速の下の広い道路を渡る。曲がる。あの道は前に通った気がする。一人では決してたどり着けない道。

美っちゃんが先頭を切って進み、松さんが時々あっちかもこっちかもと言い、私はただついていく。

アーケードに着いた。タイトルみたいに頭上に「円頓寺商店街」と書いてある。足を踏み入れた途端、まばゆいオレンジの光が見えた。天井一帯に小さな電球がとりつけられていて遠くまでずっと続いている。掲示板に「星空マーケット」というチラシが貼ってあるのが見えた。星空に模した天井は、星空よりずっと明るく、あたたかくて、やさしい感じがした。梶井基次郎の『檸檬』に出てくる果物屋の光のイメージ。好きなタイプの光。美っちゃんはこれも見せたかったみたいだ。 

 

また其処の家の美しいのは夜だった。寺町通は一体に賑やかな通りでーと云って感じは東京や大阪よりはずっと澄んでいるがー飾窓の光がおびただしく街路へ流れ出ている。それがどうした訳かその店頭の周囲だけが妙に暗いのだ。(略)そう周囲が真暗なため、店頭に点けられた幾つもの電燈が驟雨のように浴びせかける絢爛は、周囲の何者にも奪われることなく、ほしいままにも美しい眺めが照らし出されているのだ。(『檸檬』)

 

 

 

「商店街の再起を目指していろいろやっているらしい。『星空マーケット』っていって毎週金曜日にマーケットもやってるんだよ。恵さん、絶対好きだと思う」

今日何度目かの、恵さんの好きそうな〇〇。みんな私のこと好きなんだなあ。ありあまる愛だよ。ありがとうありがとう。

お店はすぐに見つかった。沖縄料理の居酒屋で、ドアの横に、もうタイルがあった。

ドアを開けるとすぐそこでばたばたと何か片づける音がして、迎えてくれたご主人の横には三線が置いてあった。今夜はもうお客さんが来ないと思って演奏会をしようとしていたらしい。美っちゃんはずんずんと入って行ってカウンターの女性と話している。松さんは入り口でご主人に三線のことを聞いている。弾いてみたいんだと思う。

カウンターの前には、タイル! タイル!! タイル!!!

いろんな色や模様のタイルでいろどられていた。紺や緑の深い色が多かった。じっと見つめる。これが私の好きなタイプのタイルか……。

 自由な夜だった。愛にあふれていた。ラブアンドピースすぎて夢かと思った。

 

 

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