むりむりちゃん日記

私が孤独なのは私のせいではない

2月の終わりに、神戸イツビで

この文章は、神戸イツビで行われたcaves君の個展の最終日に寄せて書きました。

 

私はその日初めて行った場所でその時初めて会った年下の芸術家に、もうずっと自分が考えていることが伝わらないと感じていることやともかく一人なのだということを、たどたどしく断片的に話していた。

自分のあまりにも説明できていなさに焦って言葉を検索し「拗ねているんですよね」と言った。別に全然反省していないのに反省がにじむ。

 

わかっているようなわかっていないような、たぶんわかってないんだろうなと思うような頷きの後、「それで今は打開できたんですか?」と彼に聞かれ、「打開」って言うのかと少しがっかりした。

それってなんか「打開」しなきゃいけないみたいじゃない? 

 

それでまたたどたどしく「打開」っぽい話をした。この流れでこの話をしたくなかったと思いながら言ったから思い入れも薄く、ありきたりすぎて自分で自分にがっかりした。

 

―「打開したんですよね?」という相手の期待に応えようとしたり、いいところを見せようとか反射的にに思ってしまうんだよな。

―いや、「打開していたらいいな」と相手が私のために願ってくれたことがすぐにわかるからそれに応えようと思ってしまうんだ。やさしさとやさしさの応酬。

 

芸術家に、なぜ書くのか問われ、書かずにはいられないからと言うと「呼吸や!」と一括されてその明快さに笑う。

いつかの昔、誰かかあるいは自分について同じように「呼吸だ」と考えたことがあったような気がする。

もしくは別の友達の個展のタイトルだったかもしれない。

 

年下の芸術家は、「それぞれのフィールドでそれぞれのことをすんねん。だいたい、何億分の1の確率を勝ち抜いて生まれてきたことからしてすごいんやから、みんなすごくてその辺の道歩いてる人もすごい。」と言うから、「そんなふうにはとても思えない。そうは思えない人もいっぱい存在してる」と言うと彼は笑って「その人はまだ自分のフィールドを見つけられてないねん。そんでそのことに拗ねきってもうてんねん。」と言うからついに私も笑ってしまった。

 

「拗ねてる」という言葉でおそらく深い意味もなく自分がその辺の人たちと一緒にされたことも、「フィールド」っていう浮ついた言葉も私とは明らかに違うと思いながら嫌ではなかった。

ただ違うというだけで、それ以上の何でもないということがわかったから。

芸術家の受け止めているようで受け止めておらず結局自分の世界に戻っていく在り方が、若さと、自分で感じ考えていることにしたがって生きてきた人特有のものに思われて愉快だったのかもしれない。

 

家に帰ってから考えたら、「呼吸」はやはり友達のいつかの個展のタイトルだった。DMの写真では白い少女の彫刻が顔を上げ肩をそらせて地面に向かって両腕を伸ばしていた。

 

「呼吸」では今の気分には飽き足らない気がした。

なんだろう……。それよりも「排泄」? 

生理みたいなものかもしれない。蓄積されていたものがある日剥がれ落ちて血と一緒に流れ出ていく。出したもののことはもちろん思い出しもしない。作って出して捨てて行く。

 

最近している料理も同じで、次の日も食べればいいそうしたら明日の家事が減るとさえもくろんで多めに作って冷蔵庫に置いておくのに、翌日はもう忘れて新しい料理をし、すっかり食べきってから昨日の作品の残部に気付く。

まるで昨日と今日の自分は別人みたいだ。

 

そこまで考えて満足し電気を消して寝ようとしたらふと、あれ「排泄」もまた誰かが言っていた言葉だったかもしれないと思い始めたら止まらなくなり、また眠れなくなった。

 

WEBで個人の記憶や思考の跡を検索することはまだできないんだっけ。スマホに手を伸ばしかけてからそのことに気付いて自分ですることにする。

それってもしかしたら一生思い出せないかもしれないってことだよな、と思うと喪失の予感とともにいや私は絶対に突き止めるタイプ、という自負が燃え上がる。

なくしてしまっていくら探しても見つからないもののなかには「記憶」もあるのかと思うと、本とか詩集とか源泉徴収票とかどうにもならない具体的なものに比べてそれは自分でなんとかできる範囲のような気がして私は必死だった。

 

それで見事に見つけ出しました。

 

作品を生み出すことを「排泄」と言っていたのはCoccoだった。(正確には、「うんこ」。)

わかるわかる。その時もわかると思ったけど今の方がずっとわかる。

出して捨てていくんだ。

2月の終わりに、神戸イツビでの夜を経て、私はまた書いて出していきたいと思った。

 

◇「神戸イツビ」は神戸元町にある岡山デニムの生活雑貨のお店。猫とワインとレコード好きの店主さん。この日初めて行ったのですが、居心地がよく、センスのいい店主さんとの音楽や映画のお話が楽しくてすぐにまた遊びに行っちゃいました。お店の一周年記念で2月の終わりにcaves君の個展が開かれていました。

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◇「年下の芸術家」は、caves君。音楽と絵と詩の芸術家。イツビでライブを聴きました。彼の歌で春が来たと感じました。twitter.com

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イツビとcaves君の絵。お店の雰囲気とすごく合っていました。色がきれい。建物の絵っていいなーって思いました。